類は友を呼ぶものだ。
 涼が、すすきの狸小路商店街でパフォーマンスをしていると、また、ひとりのマジシャンが観客として現れた。
 はじめは、涼も彼のことがマジシャンなのかどうかはわからなかったが、演目をしているうちに、マジックに精通する人物だということがわかってきた。 涼のパフォーマンスに対して、驚くわけではないが、感心したり拍手をしたりしている。タネを知っていて、自分も演じている者の反応である。聞くと、涼と同じようにストリートで演じていて、涼と同じように暑いので北海道に来た、と言うのである。
 演目の後、彼は、
「いや、そういうアンビもあるんですね」
と涼に言った。
 『アンビ』というのは、『アンビシャスカード』の略で、テレビでもよく見られる『真ん中に入れたカードが指を鳴らすと一番上に上がってくる』という演目である。現象が分かりやすく、インパクトも強いので、マジシャンであれば皆アンビシャスカードに憧れ、多くのマジシャンが演じるマジックでもある。しかし、ひとことに『アンビシャスカード』と言っても、マジシャンごとに自分に合った手順を考えているため、まるでご家庭の味噌汁の味のように、皆少しずつ違うのだ。
「僕がやると、その部分のウケがイマイチ良くなくて、あまりクライマックスに持っていけないんです」
 彼が言うその部分は、涼が演じるととてもウケが良い部分である。
「だから、最後に口からトランプを出して締めるんです。それだとめちゃウケが良くて」
と、彼は言う。『口からトランプ』、これは逆に、涼がやるとウケないのだ。マジシャンのキャラと、マジック手順の脈絡と、要因はいろいろとあるのだが、結局のところ演じてみないとわからない部分ではある。思うほどウケないこともあれば、思った以上にウケることもある。マジシャンの予想は必ずしも―――いや全く当たらないのだ。

 彼は、ニセコでパフォーマンスの依頼を貰った、と言った。地元の祭りで、飛び入りでパフォーマンスを演じたところ、ぜひうちの祭りでもやってください、と言われたらしいのだ。
「そんなこともあるんですね!」
と、涼は驚く。その方向性を涼は考えたこともなかったのだ。
 もっとも、彼はジャグリングも演じるということで、涼とは多少スタイルの違うマジシャンではある。が、これもまた参考にすべき情報であるのは確かだ。
 
 涼はストリート経験が浅いため、ひとつひとつの情報がありがたく思える。ストリートでは、ストリートの同業者との情報共有があり、またネットワークが作られていくこともあるのだろう。




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