いつもと違い、涼の周りに観客が集まった。珍しく人だかりになった。しかし、その状態を涼はあまり好まない。人が増えれば増えるほど、マジシャンと観客の距離が離れ、クロースアップの利点が失われていくのだ。チップも、実のところあまり入らない。
  しかし、もっと気になることがあった。景気が良くなるとガードマンがやってくるジンクスがある。そして案の定やって来た。
「許可は持っていますか?」
と言われた涼は、持ってないので申請したいのだがどうすればいいのか、と尋ねた。
「6階の事務所が受付ですが、許可は下りませんよ」
というのがガードマンの答えだった。
  しかし、それはそれで不思議だとも涼は思う。涼以外にも、ビラ配りもいれば募金活動もやっている。街頭演説の選挙活動も行われている。愛犬保護団体の募金入れには、数万円は入っているのが見えている。それが許可が下りるのであれば涼が許可を取る方法もあると思うし、無許可でやっているのならば、涼だけが場所を変えさせられるのも違和感を感じる。ガードマンが気付いていないだけかとも思いーー演説に気付かないわけはないがーーずっとガードマンの後を尾行してみたが、愛犬保護団体の横を黙って通り過ぎて行ってしまう。
「何故だ?」
  管轄外ということはあり得る。私有地ではなく公道である、という可能性だ。とはいえ、屋根がある場所で活動しているので、私有地のように見える。むしろ涼のいた場所の方が公道だと思える場所なのだ。
  境目は非常に難しい。2mも動けば、管轄から外れることだとは思う。車道も歩道も公道かと思っていたが、車道は公道で歩道が私道なのかもしれないし、両方とも私道ということもあるのかもしれない。
「どこまでが私有地なのかを聞いておくんだった」
  しかし、どうも涼の世渡りの問題であるような気がしている。
「なんで俺ばっかり」
というようなことではないが、何かうまくやるコツがあるのではないかと思うのだ。




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