インビジブルスレッドというマジック道具がある。マジック道具とは言っても、これ自体はそう特殊なものではない、単なる細い糸である。見えないほど細い。
 ずいぶん昔の話だが、このインビジブルスレッドを使おうとして買ったのだが、結局使いこなせずに押し入れの肥やしになってしまっていた。そして、また新しく購入したのだが、今また取扱いに苦労している。
「昔より進歩したと聞いていたのに」
 見えない糸も、今では取扱い安いように進歩しているという話もある。が、涼が買ったものは、15年前と同じような物だった。
「安いやつだからか」
 この糸が商品になる前の先人たちは、パンストをほどいて繊維の1本を使っていたというので驚きである。とにかく細いものを探していて、そこにたどり着いたのだろう。今では糸状になったものが購入できるので、ずいぶんと楽ではある。が、楽になっても難しい。それほど使いにくい。
「何が使いにくいって」
 見えない糸は、観客にも見えなければマジシャンにも見えないのだ。トランプでもコインでも、マジシャンは手元を見ないものなので、 演技中に見えないことはそれほど気にならない。むしろ、見えてしまうと、観客にも見えてしまうのではないかと不安になるものである。しかし、準備中にも見えないので、とにかく、演技の場に持ち込むまでに苦労するわけだ。
「今はリール式のもあるらしいけど」
 インビジブルスレッドリール。ITRと表記されるリール式の見えない糸があるようだったが、値段が張る。
「レパートリーを増やそうとすると、きっと欲しくなるだろうけど」
 今のところは、従来型の糸で我慢することにした涼である。

 

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