時期が時期なので雪が降ってもおかしくないのだが、福岡の気温はあまり下がらず、レイニークリスマスとなった。ホワイトクリスマスと比べると、ずいぶんと地味であり、ずいぶんと煩わしい。

  涼は今日、とあるホテルを訪ね、支配人と交渉をしていた。ホテルのレストランで仕事をさせてもらえないか、という交渉である。

  数日前のことだが、涼はホテルのレストランに手紙を書き、支配人にも手紙を書き、折を見てレストランに電話をかけた。すると、レストランには直接繋がらずに、電話受付の係員が応対をした。そのときに、涼は、レストランで仕事をするには、レストランの支配人ではなく、レストラン予約科の代表者の承認が必要だと言うことを知った。受付の係員が、涼にそのことを教えてくれたのだ。
 しかし、その代表者と話ができるかと涼が問うと、今は席を外していると受付は答えた。では手紙を書きたいので名前を教えてもらえないか、と涼は聞いたが、個人名は伝えられないと受付は言う。そして、上司の名前を言わずに部下である自分が名乗った。普通は、上役のほうが法人としての立場が大きいのだから、部下が上司の代わりに名乗ることはないのだろうと、涼は思う。この不思議な対応を解釈すると、ホテル側のこのような方針が浮かび上がる。営業の電話は取り次ぐな、と上司に命じられているということだ。であるから、受付は、上司の判断を仰ぐことなく、自分の裁量で受話器を置くことができるのである。
 涼の立場は、ひとまずこういうことである。簡単には会ってはもらえないし、電話でも繋いではもらえない。現実は、レストランマジシャンズガイドのようには甘くなかった。

 ずいぶんと悩みもしたが、涼は直接ホテルを訪ねることにした。 それ以外に打開策がないのだ。アポイントを取らずに支配人に会うことができるかどうかはわからなかったが、アポイントが取れないのだから、いきなり行くしかない。
「お約束は取られておりますか?」
とフロントで聞かれたので、
「いえ、アポイントを取らずにご挨拶に参りましたので、本日はアポイントだけをお取りしていただければ、後日あらためてお伺いします」
と涼は答えた。電話でアポイントが取れないので、直接フロントで取るしかない。
「ただ、お手紙を差し上げております」
と付け加えると、フロントは支配人に連絡をしたようで、支配人が涼のところにやってきて、ここで初めて会話ができる運びとなった。
 様々なハードルはあったものの、手紙という手段が大きかったのだと涼は思った。いちパフォーマーが大会社の社長と交渉することができたと思えば、事の重大さがわかるのかもしれない。
 

つづく

 


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