Kindle出版の、小説の概要も書き終わり、出版手続きは次の段階に入った。印税の設定だ。ロイヤリティ35%と75%のどちらかを選択できるようだった。
「は?」
と涼は口を開ける。
「印税って、自分で決めれるの?」
 決めれるのだ。それでいて、その2段階しかない。20%にも50%にも設定できない。
「自分で決めれるなら、70%にするに決まってる」
 2段階設定であるのも、2倍の違いであるのも、涼にはピンと来ない。自分で選択できるのもピンと来ない。
 しかし、もちろん70%にするには条件がある。その条件のひとつは、単価の設定であり、250円から1250円の間に設定する必要がある、ということ。ふたつ目はKDPセレクトに登録する、ということだ。それ以外にもいくつか条件はあったが、涼に関する部分は、とりあえず上記の2点であるようだった。
 単価は500円としたので、すでに条件をクリアしているが、KDPセレクトのほうはクリアできてはいない。登録すると、Kindleで独占出版するようだった。他の電子書籍ストアでは販売できなくなる、ということなのだろう。しかし、涼としては、1冊あたりで高い印税をもらうよりは、多くの読者に読んでもらうほうが望みに合致する。あまり目先の利益に惑わされないほうが良いだろう、と思えた。しかし、その考えを実践しようと思えば、他社からも出版するということになり、また複雑な手続きを踏まねばならない。そうしなければ、KDPセレクトを登録しなかった意味がない。印税を半分にしているのだから、売上部数を2倍に伸ばす努力をしなければならない。
 KDPセレクトには、他にもいくつか利点があって、Amazonが世界中で販売促進してくれるということだった。しかし、涼は他国での販売にはあまり魅力を感じていない。日本人向けに日本語で書いているのだから、他国で売れるとも思えない。とすると、印税率を上げても仕方がない。

 ところで、一般的な紙媒体での自費出版は、200万円以上の投資をした上で、印税は2%程度。増刷になれば少しは印税が増えるものの、それでも6%や8%止まりだ。しかも、1年や、長くても3年しか面倒を見てくれず、売れ残りは買い取らなければならないので、更なる出費に苛まれる可能性もある。無料で出版できて35%印税で、しかも半永久的に販売が続けられるKDPは、多くの点で魅力がある。販売促進は自分でしなければならないが、しかし、200万円を支払った自費出版でも、担当者の話しぶりを聞くと、販売促進をしてくれるわけではないようだった。自分でやらなければならないのは、あまり変わらないところである。むしろ、はじめから500円で出版できるというのは、電子出版の大きな魅力である。自費出版社からは1冊1400円程度を提案されるので、読者の負担も大きい。内容よりも装丁に費用がかかるようなのだ。
 しかし、1400円で売れたとしても、著者が手にする印税は2%の28円。KDPで500円で売れれば、35%の175円。1400円が6冊売れたよりも印税は大きいのだ。あまり印税ばかり意識しても仕方がないのだが、読者にとって手軽であるのは著者としても嬉しいことである。

 以前は、Kindleの書籍はKindleが発売した専用の電子リーダーでなければ読めなかったようだが、今ではパソコンでもスマホでも、Kindleリーダーアプリが無料で手に入る。家でパソコンで読んだ続きが、電車でスマホで読める、というような時代となった。専用Kindleリーダー機があまり普及しないない実情を考えると、涼としてもありがたい限りである。

 必要事項を入力の上、涼は『出版』のボタンを押した。涼の作品は、すでに涼の手から離れた。72時間以内に、Kindleの精査のもと、Kindleストアに並ぶ見通しである。



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