「500円お預かりしましたので、130円のお返しになります」
  そのマクドナルド店員は釣り銭を握って涼に言った。涼の計算では、お釣りは250円なのだと思っていたので、額が合わない。
「あの、紅茶が100円で、ポテトSが150円で、どうして500円のお釣りが130円なんですか?」
と涼が訊くと、店員は慌てたように、
「すいません、SとLを聞き間違えました」
と言う。今更だが、エスもエムもエルも、騒がしい場所では聞き違えそうなのだから、マクドナルドの厨房が騒がしいのはどうかと思う。しかし、注文を訂正してくれれば、それでよい。
「LをSに変更いたします」
と店員は言ったので、涼は一瞬安心した。が、ポテトのサイズを変更しただけで、値段は変更しようとしない。
「では130円お返しします」
「はい?」
  涼は素っ頓狂な声を上げた。店員は計算がよくわかっていないのか。
「確認しますが……」
  涼は同じ話をもう一度しなければならなくなった。
「だから、お釣りは250円なんですよね?」
「はい、そうですね」
  店員は、口ではそう言うものの、握った130円を引っ込めようとしない。自分の行動が、よくわかっていないのではないかと不安になる。日本語が不得意な留学生なのかと一瞬思うような挙動を示すが、ネームプレートを見ると、日本人としてよくある名前。言葉が通じていないわけでもなさそうだった。
  とりあえず130円を渡してしまおうとしているが、これを受け取ると、残り120円が帰ってこないことになるのだろう。何度もそういうやり取りを繰り返すうちに、
「差額の120円は商品と一緒に戻します」
と店員は言う。戻ってくるのならそれでもよいがーーこの際小銭が増えるのは目をつぶるとしてーー、しかし、そんなお釣りの出し方は聞いたことがない。一旦注文をキャンセルして再注文にするほうが、ずっと楽なはずだ。だいいち、レジの計算とレジ内の金額がずれてしまう、といらぬ心配までしてしまう。
  嫌な予感を抱きつつも、涼はひとまず130円を受け取った。そして、案の定嫌な予感は当たった。
「紅茶とポテトSの方、どうぞー」
と涼に商品が出されるが、半ば予想どおり、お釣りは返ってきていない。涼はまたレジ係と話さなければなくなった。
「あの、差額を返していただけるんですよね?」
  しかし、レジ係は、まるで初めて涼と話すかのような素振りだ。
「はい。どういうことでしょうか?」
と言うのだ。
「少々お待ちください」
と、長いこと待たされる。たかだか120円のために何をやっているのかと、自分が情けなくもなってくる。
  結局、最終的に、レジ係はレジから小銭を出して涼に渡した。
「はじめからそうすればいいのに」
  涼は内心思いながら釣り銭を手にする。しかし、途中から120円をもらうべきなのか、120円をすでにもらった後なのか、よくわからなくなっていた。とりあえず、130円をもらったので、少なくとも損はしないと思って引き下がったが、今考えてみると、やはり正しくは120円だったはずだ。レジ内の誤差がどうなっているのか、もう想像もできないが、もはや訂正に行く気もない。仮に行っても、きっと理解してもらえないだろう、とも思う。
  このマクドナルドは、以前にも、
「ホットティーにはアイスとミルクとレモンがありますが」
と言う奇妙な選択肢を提示する店員がいたりと、常々苦労がある。店員教育がなってないのか、などと思いもするが、しかし、まさかこんな教育が必要だとは経営者も思わないはずだ。言葉遣いや低姿勢な態度はできているので、何も教育していないわけではないのだろう。

  その後シアトルズカフェに入った涼は、普通の対応ができる店員に驚いてしまうほどだった。

 

ブログランキング参加中
皆さんのクリックに勇気付けられて頑張れています!!