ヨーロッパのときにもシドニーのときにもあったことだが、ここ日本でもたまにあるのが、演目の途中でカードをめくってしまう観客がいるということだ。これをガードするのは、いつも難しい。大人でもたまにいるが、その時は、
「演目が終わった後で調べてもらえますよ」
と言うことで、とりあえず最後まで見てもらえる。しかし子供は、いきなりめくってしまうので、油断ができないところだ。今日もまた子供にめくられてしまう場面があった。
  めくってしまうと、それ以上は演目が続けられないので、結果的に観客も不満の結末になってしまうのだが、しかし涼が失敗したことになるのだから、チップが入らなくなる。めくった子供の親は、
「まあ、失敗したけど、一応見たからね」
という風に百円玉を入れてくれたが、どうにも釈然としないところだ。
  演目中のいかなる失敗もマジシャンの責任だ、と涼は思ってやっているが、しかし、例えば、著名マジシャンのステージマジックを見に行って、子供がステージに上がり込んでマジックが失敗したとしたら、それでもその著名マジシャンの責任なのかと想像すると、そんなわけはない。チップどころか、罰金を請求されるはずである。
  
  カードをめくった観客は大抵、
「ほらね。こうなってるってわかってたよ」
と言うのだが、解答を見た後に「わかっていた」と得意顔をされても、涼としても困ってしまう。わかるのならば見なくてもよいのだから、めくったということは、わかっていなかったのだろうと思うしかないのだ。
「まったくわからない!」
と言う観客でも、めくったらわかることだろう。答えを見てわかるのは、皆だいたい同じだろうと涼は思う。

  この問題は、わりと重要な問題なのだが、半ば諦めるのが正しい方法なのかもしれない。めくらなかったとしても、あまり喜ばず、あまりチップを入れない観客だとも思える。
「演じ損のパターンの1つだと思うことにしよう」
  書店やコンビニの経営者は、一定の確率で万引きされることを見越していると聞く。長くやろうとすれば、すべてがフェアに行えるわけではないと、少し余白を見ていた方がよいのかもしれない。




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