誕生日ではあるが、あまり良いことはない。しかし、悪いことならばある。
  今日、涼が演じていると、市役所員がやって来た。
「先日、条例改正で、那覇市のすべての路上での演技を禁止することになりました。ただいま、その取り締まりを強化しています」
と、市役所員は涼の名前を控えて行った。
「パフォーマンスの取り締まりを強化しているのか……」
  市役所員が去った後、涼はボソリとつぶやく。飲酒運転や交通違反ならばともかく、パフォーマンス取り締まりを強化したりもするのか、と涼は驚く。
「土曜日に、そのために市役所員が回ってるんだから、よほど本気なんだろう」
  市役所が出るとなると、商店街やドンキホーテのような個別の対応とは異なることになる。商店街が、
「閉店後だったら、私たちは何も言いません」
と言ったとしても、市役所の発言の前には無意味であることだろう。
  涼は、渋々とテーブルを畳んで帰路に就く。すべての路上がダメだと言われると、涼が演じる場所は、もう1箇所もない。
「はぁ」
と涼はため息をつく。あと5泊残ってはいるが、もうやることがない。
  涼は、すぐにスマホで大阪行きの飛行機のチケットを取った。明日の便は売り切れていたので、明後日のチケットを買った。
「長居は無用だ」
  仕事ができないのなら、留まる理由もない。
  ふと耳を澄ますと、
「ねえねえ。仕事が好きなの?」
と向こうから声が聞こえた。ゲストハウスのスタッフが2人で会話をしているのだ。
「いや。全然好きじゃないけど、やらないといけないでしょう?」
「じゃあさ。何でも自由にできるフリーな状態になったらどうする?仕事する?」
「まぁ、ヒマだったら仕事するよねぇ」
「それって、仕事が好きってことじゃない」
  なんとも微笑ましい会話に耳を傾けながら、この定義に従うならば、自分も仕事が好きなんだなぁ、と涼は思う。
「だって、このゲストハウスで働くようになったのも、そういう旅行者と触れ合うのが好きなわけだし」
  涼の気持ちを、形を変えて代弁しているようにも聞こえた。
  涼のスマホがブルブルと振動し、チケットの支払い確認のメールが届く。1万円を超えている。格安航空の魅力を感じられない金額だ。
「飛行機の2重取りをすることになるとはね」
  格安航空はキャンセルができないので、便を変えたければもう1枚チケットを買う必要がある。
  当然、宿も2重取りだ。
「あと5日留まっていれば、お金かからないんだけど」
  あと5泊分の宿代はすでに支払済みであるし、5日後の航空券もすでに支払済み。にもかかわらず、それを放棄して、お金を払って仕事に行きたいと思うのだから不思議である。
「何のために仕事してるんだろう」
  最近よく思うことだ。何かを買いたい気持ちがあるでもなく、貯めたいという積極的な気持ちがあるわけでもない(しかし、貯めようとすると貯まらないのに、興味ないときに得てして貯まっているものである)。実のところ、チップをもらっても、あまり使う当てがない。モチベーションに繋がるものがそこにあるわけではない。
「何のためだろう」
  結局、仕事が好きだから仕事をしている。そういうことなのだろ。