涼は大阪に来ていた。駅付近を散策し、どこかいい場所がないかと調査する。と、そうしていると、スーツ姿ーー上着は脱いでいたがーーの男性から声がかかった。
「あの。いまお仕事に関するアンケートを取っているのですが」
  取り急ぎの用事もなく、断る名目がひとつもない。
「じゃあ、アンケート見てみましょう」
と、涼は応じた。しかし、
「僕はマジシャンをやっていて、福岡出身で、各地を転々としていて、こういうストリートで演じています」
というような話をすると、
「でしたら、まさにこの場所が人通りが多いですよ。僕は毎日ここでアンケート調査をする仕事をしていますから」
と、ストリート事情を教えてくれた。
「海遊館がいいですよ」「大阪城はイマイチ」「通天閣は外国人が多いです」あべのハルカスに行く観光客多いですが」
などなど、涼が知りたかった情報が満載だ。
「それで、アンケートとはどんな?」
  いろいろと教えてくれたのだから、涼も積極的にアンケート調査に協力しようとした。のだが、どうやら、涼はアンケート対象ではないと思ったのらしく、
「ああ。いえ、それは結構です。とにかく、もう少し時間経ったらもっと人も増えますので、駅付近だったらここが一番ですよ」
ということで話を終えた。
  その調査員は、次の対象者を見つけたらしく、
「では」
と去って行ったが、その対象者を見るとサラリーマンと思しきスーツ姿の男性。
「僕と全然佇まいが違うけど」
  涼は私服姿でリュックを背負っている。ちょっとしたバックパッカーである。
「身なりでわかりそうなものだけど」
  自由業だとわかりそうなものだ。職業によるものか。それとも大阪人ではないからか。2週間しか留まらないからか。どうぞ聞いてくださいという涼の回答は、あまり役に立たないということなのだろう。
「でも、アンケーターに聞くのはいいかもしれない」
  怪しいアンケートもあるかもしれないが、あまり気にする必要もない。地元民でない上に、職業的に困ることもない。お金や貴重品はあまり持ち歩いておらず、身分証明書も宿に置いてきている。トランプを盗られるとも思えない。命以外に取られるものは持ち歩いていない。
「ある意味、便利な立場だ」