夜になると、京都タワー前にも人通りが多くなってきた。京都タワーは、京都駅と車道を挟んだ位置にあり、タワー前は、公道であるように見受けられた。
  涼は、タワー前でテーブルを広げ、観客を待った。しかし、1時間ほどいて、演じたのは2回。通行人が少ないわけではない。若いカップルや、軽く1次会を終えたサラリーマン4人組など、涼の平均的な観客層も多い。にもかかわらず。
「こんなにスルーされるものなのか」
  福岡や東京では1時間に10回演じることもあるだけに、同じほどの通行人に対して5分の1しか演じる機会がないのは辛い。涼が受け入れられていないように思えてくる。思えば、奈良で観客が多かったのも、修学旅行生や外国人観光客。地元人はあまりいなかった。
「存在を気付かれていない気がする」
  通行人は、あまり涼の方を振り向かない。では何を見ているかというと、スマホである。歩いている間にも読書をする二宮金次郎よろしく、スマホを見ながら通り過ぎる通行人たちに、涼ができることは何もなかった。
「やっぱり、関西ウケしないのかなぁ」
  見てくれた数人のウケはいいのだが、まず見ようと思われないようだった。

  一夜明けた今、涼はまた嵐山へと向かっていた。僅かながらでも期待が持てるのは、もう嵐山しか残されていない気がする。嵐山には地元人はあまりいなく、旅行者が多い。
  嵐電を降り、涼は仕事場へ向かう。