イギリスがEUを離脱するというニュースを見ると、
「え?イギリスってEUだったの?」
と涼は思ってしまう。涼がイギリスに行った時の印象はそういうものだった。『EUだと思ってイギリスに行ったが、行ってみたらEUではなかった』という印象を持っているのだ。

 涼は昨年、オランダ、ドイツ、ベルギー、ルクセンブルク、フランス、イギリス、とヨーロッパ諸国を巡ったが、イギリスだけがほかの諸国から独立しているように感じた。
 まず国境があり――どちらかというと、それ以外の国で国境がないほうが不思議なのかもしれないが――、フランスからイギリスに渡る際にだけ、涼は出入国審査を受けた。
 通貨が違う、ということもある。EU諸国の通貨は€(ユーロ)であるのに対し、イギリスは£(ポンド)。ユーロの小銭はセントだが、ポンドの小銭はペンスだ。イギリスでユーロは使えないし、他の諸国でポンドは使えない。
 1国だけ海を隔てているところもまた――アイルランドもまた海を隔てているが――国境の意識を強くさせる。『外国』イコール『海外』であるのは、むしろ日本と共通するところだ。
 ホテルで朝食をとると、文化的な違いも感じることができる。イギリスの『ブリティッシュブレックファスト』は、豪勢なコース料理――またはそれに準ずるプレート料理――であるのに対し、それ以外の諸国の『コンチネンタルブレックファスト』はチーズやシリアルやヨーグルトといった軽食や乾き物のバイキング。イギリスは昼下がりには紅茶を飲むが、他の諸国の昼下がりは堂々とビールを飲んでいる。
「EU諸国との共通点のほうが少ないんだよなぁ」
 それだけ違うのだから、EU諸国からは独立しているという国民意識があっても何の不思議もない、と涼は思う。

 それよりも、むしろ、イングランドとスコットランドが別の国である、という印象のほうを涼は強く受けた。スコットランドも、一度はイギリスから独立しようと立ち上がり、意見が分かれつつも、結果的に独立しなかった、という経緯がある。しかし、今回は、スコットランドはEUに残りたいと願う人のほうが多かったと聞くので、『イングランドとは別だが、EUには所属していたい』という不思議な意識があるのだと、涼は思っているところだ。
 スコットランドはスコットランドで通貨がある。イングランド通貨はスコットランドでも使えるが、スコットランド通貨はイングランドでは使えない。
 スコットランド人に出身を聞くと、当然『スコットランド』だと答えるし、スコットランドでイングランド人に聞くと、「私はこの国の者ではなくてイングランドから来たんだ」というようは表現をする。イングランドとスコットランドは、『隣の国』であるという意識を持っているようだった。日本では『イギリス人』とひとまとめにするが、当のイギリス人たちは『イギリス(英語ではUK)』の国民だという意識ではないのだろう。

 であるから、イギリスがEUを離脱する、と聞くと、半ば当然だと涼は思うし、意識としてはすでに離脱していたはずだ、と過去の経験から感じ取ることもできた。
 しかし、その影響がどれほど出ているのか、今や1ポンド=130円台までになっている。1年前に涼が行った時には200円近かったのに、である。
「じゃあ、去年15000円チップもらった、と思っていたのが、今だったら10000円ってこと??」
 チップ額が大きい、と喜んでいたのも去年の話で、今行くとオーストラリア並みに渋いということになるのかもしれない。もっとも、現地調達と言うべきか地産地消と言うべきか、チップをもらった場所で食費や宿泊費として消費するので、日本円に換算する必要もないといえばないのだが。
 涼は、チップをもらう身なので、物価が高いほうがありがたいのだが、海外旅行をしたい人の感覚では、外貨が安くなるのは好ましいのかもしれない。




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