ボストンを出た涼は16時間のロングフライトの後、香港に到着した。ここで6時間ほど乗り継ぎ待ちをし、さらに3-4時間ほどで日本に戻るところである。
「まだまだ先が長い」

  涼がブログチェックをすると、ページ内に英語学習法の広告が出ていた。
「そんな関連性があるほどのこと書いたかな」




  見ると、81文で何でも話せると書いてある。
「81文ねぇ」
  あまり少ないとも思えない。
「そこをなんとか81単語にしてもらえませんかね」
  81単語で渡り歩けるのだとしたら、英語が相当身近に感じられることだろう。
  しかし、そういうことよりも、今の実力でアメリカを旅行してみるのが一番いいと、涼は常々思っている。
  英会話の広告を見ていると、キャッチボールばかり練習するけど、野球の試合には出たことがない人をイメージしてしまうのだ。基礎は大事だが、全体像も掴んでおきたいものだと、涼には思える。
  もっとも、コースを回らず、打ちっ放しゴルフが好きな人もいるのだから、部分的な訓練それ自体が楽しい、ということもあるのだろうが。

  日本人は、ことさら英会話にコンプレックスを持っているからなのか、
「英語できます」
という人がいると、
「ちょっと喋ってみて!」
と言ったりもする。これを他の教科に置き換えると、
「数学得意なんだって?ちょっとやってみて!」
というのと同じほど、やりにくいもののように思える。
「マジックやってみて!」
とはわけが違う。どちらかというと、
「おもしろいこと言ってみて!」
に近いような気もする。
「体が白い犬がいたんだ。その犬は尾も白いんだ」
というようなアラフォージョークを言わねばならなくなるところだ。

  涼が英語でなんでも話せるかと言われると、そんなことは全くないし、81文を使いこなしているかと言われると、これまた疑問だ。
  しかし、事実アメリカに1月ほど滞在し、チップ生活を送ってきたのだから、
「ハッキリ言って、どうとでもなる」
と言いたい立場である。

  もちろん、高いレベルを目指すのであれば、涼と同じではいかないであろうし、むしろ81文だけ覚えるという発想にもならないとは思うが。