ボストンの時のこと。日本語がうまい外国人が、時おり涼の観客としてやって来た。何で覚えたのかと聞くと、
「日本のアニメを見て育ったよ」
と、そのうちのひとりが言う。
「へえ!それはすごいですね!」
と涼は驚いた。
  その外国人観客は『進撃のエヴァ』と書いたTシャツを着ていた。
「それは日本製ではないですよ」
と親切心を出そうかとも思ったが、あまり細かいことを言っても仕方ないと思い、
「いいTシャツですね」
と涼は言っておいた。
  雰囲気が感じられれば、それでいいのだとも思う。彼より日本に詳しい外国人はあまり多くはないことだろう。彼に間違いを指摘できる者は、おそらく彼の周りにはいないだろうと涼は思う。

  一方、ニューヨークの路上では、ヴィトンやシャネルに見えるようなバッグが、ダンボールからドサリと道端のブルーシートの上に投げ出されて売られているのも涼は見た。20ドル(2000円)だったか30ドル(3000円)だったか、とにかく、格安だったような記憶だ。
「誰か買うのかなぁ」
  涼はいぶかしく思うが、買う者がいるから売る者がいるのだろう。
  もっとも、安いのだから良心的だ、と思ったりもしている涼だ。
「ホンモノだと思ってふんだくられた!」
とはならないのだから。