今日、通帳の記帳をすると、製本直送からの振り込みがあった。『十字架は誰の手に』製本版の売り上げである。『製本直送』というウェブ製本社に、涼は販売の依頼をしているのだ。
 今回が、はじめての振り込みだった。その明細を見て、涼は顔を青くする。振込手数料が、1冊売れたときの涼の手取りよりも大きいのだ。
「こ、これは……売れれば売れるほど、赤字になるパターンでは……」
 正確には、売れれば売れるほど、ではなく、月に1冊のペースで売れるのが一番まずい、という計算になる。一度にたくさん売れれば、振込手数料の額が気にならないほどの入金になるかもしれないし、1冊も売れなければ、振り込みがないので手数料もない。1冊だけ売れたとき、涼は赤字になってしまうのだ。
「これ……熊本に寄付するだけの利益が出ないのでは……」
 涼の手取りがなくなるのは、薄々感じてはいたが、まさか赤字になる可能性までは考えていなかった。
 今回の振り込みは、5冊売れたぶんの収入が入ったので、赤字になることはなかったが、次回以降、毎回黒字になるとは限らないということだ。
「自費出版よりはマシだけど」
 200万円以上をかけて出版して、1冊あたり20円の印税しか得られない、という状況よりはずっとよいとは思えるが、2000円で売っても赤字になる可能性があるというのは、なかなか世知辛くも思える。
 しかし、振込手数料のことまで考えていなかったのだが、200万円をかけた自費出版でも、振込手数料は支払わなければならないことだろう。とすると、20円の印税で10冊売れたとしても、振込手数料で赤字になってしまうこともあるのかもしれない。もっとも、200万円を支払ってしまえば、200円や300円はその0.01パーセント。意識するべくもない誤差であるとも言える。

 推理小説『十字架は誰の手に』
 製本版は2000円で売っても、著者は赤字。
 電子書籍版は500円で売って、十分な黒字。
 
 できれば電子書籍版で買ってほしいものである。




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