涼のマジックには、あまりギミックものは登場しない。とは言っても、観客にそれがギミックなのかそうではないのかがわかるわけではないので、涼だけが知っていること、ということにはなるのだが。
 ギミックを使わない理由はいろいろあるのだが、結局のところ、ギミックは高いので、消耗が速い環境では使いたくない、という理由が大きい。
 ストリートでは、トランプは3日ほどしかもたない。トランプは消耗品なので、3日後にまた新品を使えばよいのだが、ギミックカードを3日に1回新品にすると考えると、とてもハイコストになってしまう。ギミックカードは、室内で使いたいものだ。
 かと言って居酒屋で使うのも、実はやりにくい部分がある。酔った観客は、すぐにカードを調べたがるので、証拠の残るギミックは使いにくいというわけだ。それ以外にも、居酒屋では、ビールがかかったり醤油がついたりと、実は室内ではあるが、カードに優しい環境ではない。マヨネーズを塗られてしまうこともある。
 他のマジシャンがどうしているのか、あまり知らないが、居酒屋では涼は、場所を取らないカードマジックをやっている。テーブルを使えるとマジックの幅は広がるのだが、居酒屋の400席、500席で演じてきた涼は、観客の食事のテーブルには、それほどマジシャンが使えるスペースがないのだとわかってきた。
 一方、ストリートでは、テーブルを使って演じているので、その点ではむしろ居酒屋よりもマジックの幅は広い。が、消耗が激しいのと、風が吹いたりすることを考えると、デリケートなものや、軽いものは使いにくい。1度しか演じないわけではなく、何十回も何百回も演じる必要があるのだ。
 涼が演じたいギミックもののパケットトリックなどは(例えばワイルドカードのような)、実は居酒屋にもストリートにも向かないのだと、だんだんとわかってくることになる。ワイルドカードのギミックカードが、雨に濡れてしまったりすることを考えると、演じようという気概が萎えてしまうものである。
「くそー。じゃあ、パケットトリックは一体どこで演じるマジックなんだ?」
 その答えはマジックバーなのだろう。そもそも、パケットトリック自体、玄人好みのマジックなのだ。玄人好みのマジックを演じる場は、玄人が多い場であるべきところだ。
 涼の観客に玄人はほとんどいないのだが、涼自身が玄人なので、演じたいという気分になるのだ。




廣木涼を応援するボタン