先日、カジノ法案が成立した。これですぐにカジノが設立される、という単純な話ではなさそうではあるが、しかし、いずれ日本でもカジノが運営されることになるのだろう。
 涼の興味は、そのときディーラーとして働くのはマジシャンの仕事なのだろうか、という点だ。
 オーストラリアやアメリカでマジックを演じたとき、涼はよく観客に、
「カジノで働きなよ」
と声をかけられた。日本人の意識として、マジシャンとディーラーは通ずるものがあると思われそうであるし、実際にカジノがある国でも、同じ意識があるようなので、やはりカジノのディーラーはマジシャンがやるものなのかもしれない。
 少なくともカジノのない日本にはディーラーがいないので、外国のカジノのディーラーを呼んでくるか、マジシャンに依頼するか、ということになるのだろう。何の経験もない従業員がカードシャッフルから勉強するということにはならないだろうとは思うが、全自動の機械式になってしまう、なんてことはあり得るのかもしれない。

 カジノのディーラーともなると、相当額の報酬を得ることになるはずである。報酬が低いと、簡単に買収されてしまうからだ。
「勝ち分の半額出すから、俺が勝つようにカードを配ってくれ」
と言われたとしても、軽くはねのけられるほどの給料を経営者はディーラーに支払わなければならないことだろう。
 買収されることを防ぐため、裁判官はとても高額の収入を得ていると聞くが、ディーラーも同様に、買収されないだけの額の契約料を提示されるものなのだろうと涼は想像している。
 おそらく、この世の中で、最も買収の誘惑が多い職業が、カジノのディーラーなのではないかとさえ涼は思う。
「誰にも言わないから、ちょっと手品のタネ教えてよ」
と軽く言われる感じで、
「ちょっと俺に勝たせてよ」
と言われるに違いない、と涼は想像している。

 今はまだ涼もそこほど同業者の知り合いは多くはないが、もしかすると、いずれ同業者からそういう話が聞ける日も来るのではないかと、少しだけ楽しみにしている。



  廣木涼を応援するボタン