マジックを演じた後、
「タネを教えてください」
というのは、涼がよく言われることだ。
  たまに、
「チップ2倍出すから!」
と交渉されたりもするが、タネの値段というのは、そんな小さな額ではない。涼の価値観としては、マジックの価値はチップ額の1000倍である。
  ショーはエンターテイメントだが、タネはビジネスである、ということを知らねば、エンターテイメントの延長でタネが知れると思ってしまうことだろう。
  マジックのタネは『お金を稼げる秘密』なのだ。
  事実、涼が得てきたチップ額が、そのマジックの価値を証明してくれる。
  そして、こうして涼がチップを得られている実情は、先人たちがマジックのタネの秘密を大切に扱ってきた結果であると、涼は感謝せずにはいられない。

  マジックのタネが『お金を稼げる秘密』であるという考えは、実際にお金を稼いでみなければ実感がわかないものであると、涼は思う。
  涼も、アマチュア時代は、それほどマジックのタネを大切に考えていなかったところがある。今でも、
「ひとつのテクニックをそれほどひた隠しにすることもないだろう」
と思う時もあるが、しかし、先人たちやマジック自体をリスペクトすると、どんな単純なトリックも、そうやすやすと言ってしまえるものではない。

  もちろん、ビジネスとして、レクチャーの依頼などがあれば引き受けるつもりでいるし、一切タネを明かさないスタンスを保つというつもりではない。相手もタネを知っている前提で話すことも、よくあることだ。
  しかし、そのビジネスの価値を下げないためにも、容易く秘密を暴露すべきではないところだろう。

  カードはリスペクトしながら破る。タネはリスペクトしながら明かす。
  その価値を十分に慮った上で。



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