カード当てマジックを演じようとすると、たまに、当てるよりも前にカードを言ってしまう子供がいる。
  これは、別に、マジシャンを困らせようとしているわけではなく、うっかり口に出してしまう、ということなのだが、割りと多いパフォーマンス事故のひとつである。
  小さな子供は、たくさんの指示を同時にこなせないので、
『カードを覚える』『それを口に出さない』『お父さんやお母さんにカードを見せる』『でもマジシャンには見せない』というようなことをさせてしまうと、高確率でマジシャンに秘密を漏らしてしまう。興味深いことに、念を押せば押すほど、より高い確率で秘密を漏らしてしまう、というのが、涼の統計である。
  念を押すと、子供は頑なに秘密を漏らすまいとするのだが、たとえば、秘密を漏らさないための方法として、マジシャンに背を向けたりするので、つまりカードの面をマジシャン側に向けてしまう、というような失敗をしてしまう。他にも、秘密を漏らしたくない気持ちでカードを強く握りすぎ、カードが曲がってしまうのですぐわかる、といったこともある。普通にしていれば漏らさずに済む情報を隠そうとすることで、わざわざ見せてしまう、というようなことも多い。

  さて、期せずしてカードがわかってしまうと、マジシャンとしては都合が悪い。
「では、別のカードを使いましょうね」
と、カードを変更できる場合はよいが、どうしてもそのカードでなければならないマジックもある。
  今となっては、途中からマジックを切り替えることもそう困難ではないが、涼もマジック初心者だった頃は、こういう事故に泣かされたものだった。
  そして、より厳密に言うと、『見えた』ことが重要ではなく、『見えたと思われた』ということが重要であるので、
「今、見えました?」
と言われなければ、見えていても見えていない体で演技を続けることも、今ではよくあることだ。逆に、見えていなくても、チェンジ要求があればチェンジする。重要なのは、事実よりも、観客の印象であることが、長く演じているとわかってくるものである。


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