新聞の片隅で、涼は、パフォーマーが起こした裁判の結果を目にした。
 神奈川県海老名市の、駅の自由通路で、「マネキンフラッシュモブ」というパフォーマンスを行っていた団体に、市はパフォーマンス禁止を求めたのだが、パフォーマーたちの訴えのほうが勝り、裁判では「禁止を求めたのは違法」という判決が下りたのだという。つまり、パフォーマンスを継続してよい、という判決だということになる。
「えーっ!!そんなことあるの!?」
と涼は驚かずにはいられない。 
「場所の所有者がダメだって言ったらダメなんじゃないの?」
というのが涼の理解だ。
 フラッシュモブというパフォーマンスを涼は知らなかったが、どうやら、マネキンのようにじっと動かずに静止するパフォーマンスのようだった。銅像のように静止する『スタチュー』と同じようなものなのかもしれない。
 しかし、マネキンは『安倍政権反対』といったような政治的メッセージを載せたプラカードを掲げているので、どちらかというと、メッセージのほうがパフォーマンスの本質なのかもしれなかった。

 勝訴した理由は、『表現の自由を禁じるのは違法』というようなことだったというが、
「そういう問題なのかなぁ」
と涼は首を傾げている。
 しかし考えてみれば、涼が渋谷でストリートマジックをしていたときも、
「通報がありましたので」
と撤収させられたことはあるが、
「禁止されています」
と言われたことはない。涼の認識として、路上パフォーマンスは禁止も許可もされていないグレーゾーン、と思っていたのだが、もしかすると「迷惑をかけない限りは明確に合法」ということなのかもしれない。
「だって、そうじゃなければ、勝訴できないからね」
 もちろん、場所によるし、自治体の条例に従わなければならないことではあるのだが、海老名市では、市が、
「条例違反だ!」
と訴えるのが棄却されているというのだ。
「条例違反ではないし、違反だと言うほうが違法」
という判決は、涼から見れば、とても驚くべき裁定である。

 とはいえ、
「追い払われたから訴えてやる!」
と涼が思うことはないのではあるが。




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