「マジックで腰痛が治せればいいのに」
「マジックで執筆を終わらせられればいいのに」
 そういうことを言いたくもなるのだが、こういうとき、"マジック"という言葉は、"魔法のような超越的な力"のことをさすだろう。そうでないときは、"一見不可能であるような現象をトリックを使って可能にするショー"のことを言う。
「今からマジックをお見せしますね」
と涼が言うのは、後者の意味として使っているので、要するに、
「これからトリックを使って不可能とも思える現象をお見せしますね」
と言っているわけだが、聞いている観客にそのとおりの意味には伝わらないであろうし、錯覚させるに何かと便利な単語が"マジック"である。観客はきっと、
「私は魔法使いなんですよ。それを証明しますね」
とマジシャンが言っているように聞こえることだろう。

 マジシャンとは、魔法使い役専門の俳優のことだと涼などは思っている。ので、
「マジシャンでも、マジックでお金は増やせないんですか?」
と言われるのは、他のたとえで言えば、スーパーマンやウルトラマンの主演俳優に、
「普通は飛べないんですか?」
と言うことと同じだろうとは思う。が、きっとそういうことをスーパーマンやウルトラマンは言われているであろうと涼は想像するので、マジシャンが日常からマジックで何でもやるのだと思われることも、そう不思議ではない。
 マジックにタネがあることをマジシャンが公言するのは、夢のない話だと言う人もいるのかもしれないが、スーパーマンの俳優が日常から空を飛べるとは言わないで、
「飛べない人がスーパーマンという役を演じて夢のある話を演出するのだ」
と言うほうが、涼としては表現が適しているように思える。
 演じる上では"魔法"であるが、現実的な目で見れば"職人芸"だということになるだろう。かと言って、
「職人芸をお見せします」
とマジシャンが言うことはないのではあるが。

 ところで、ではもし本当に"魔法のような超越的な力"を手にしたら、いったいどういう風に使いたいのか、と問われると、なんとも夢のないことに、
「その魔法でマジックやりたい」
と涼は言ってしまいそうである。マジシャンは、魔法などなくてもマジックを演じることができるのに、労せずして、楽をしてチチンプイプイと魔法を使って演じたいというわけである。
「タネがあるとは言うけど、本当はそんなものなくて超能力でやってるんでしょ!」
と、たまに涼は観客に言われたりすると、
「超能力がなくてもできることを、超能力を使ってわざわざやらないけど」
と内心思っていたものだったが、実際手に入れると、やってしまうのかもしれないのである。
「魔法で演じれば、腰痛とか関係なくできるのかも」
などと思ったりもするが、果たして魔法が楽なものなのか、それはまるで涼のあずかり知らぬものではある。




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