6日連続企画。第③話。
第1作品である『十字架は誰の手に』の冒頭部分を公開します。

(作品の最後までを連載するわけではありません)


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 謝罪会見で、手術中にガンの転移を発見し、それに正しく対応できなかったから手術が失敗した、と副院長の笠崎は説明した。
 そして、術前に発見できなかったことや、術中の判断や執刀の不適切さを謝罪していた。
 しかし、特殊捜査班の調査で、他の医療機関の専門家に意見を求めたところ、この場合の転移の発見は極めて難しく、他の医師でも発見できなかっただろうとして、不可抗力であるとの見解を示した。
 また術中の判断についても合理的であった、というのが専門家たちの言葉だった。
 患者を救うことができなかったのは、現代医学の限界であり、仕方のなかったことだ、と専門家たちは口を揃えたという。

「訴えられてもないのにテレビで謝るなんて、何か目論見があったのでしょうか」

 里生が勘繰るのは無理もないことだったが、しかし佐竹は、
「副院長が高潔な医師だったと思いたいものだな」
と希望を込めた。

「だいたい、会見では、院長ではなく副院長ばかりが頭を下げていたから、執刀したのが副院長なのかと思っていたら、報告書によれば執刀医は別の若い医師だって言うじゃないか」

 会見に顔を出したのは院長と副院長の2人だけだった。
 報告書にある執刀医は、会見には出ていなかったことになる。

「あ、それに佐竹さん。そもそも、この事故が起きたのは8ヶ月以上も前のことだったんですね」

 報告書によると、患者が死亡したのは、昨年5月20日のことだった。

「会見を開くまでにそんなに時間をかけるのって、不自然ですよね」

 その理由は執刀医の体調不良、と報告書にはあったが、それ以上細かいことは記載されてはいなかった。

「だけど、8ヶ月待ったわりに、その執刀医は会見に来ないなんて。どういうことなんでしょうか?」

「若い執刀医の責任を副院長が負おうとしたのかもしれない。責任感の強い人物だったということなんだろう。さて」

 言いながら佐竹が壁のハンガーからコートを取って羽織った。

「サトウ。執刀医や副院長の性格を論議しても仕方ない。俺たちには俺たちの仕事があるんだからな」

 4ヶ月前、10月13日に起こった政治家、東沢智成の殺人事件の解決が、佐竹と里生が早急に行うべき任務だった。

「行くぞ」

 佐竹が一課の居室の出口に向かう。
 里生も、
「はいっ!頑張りますっ!」
と、それに続いた。

 しかし、その夜20時50分。不幸な通報が警察のもとに届いた。 新たな殺人が起こったのだ。

                                   ≪④へ続く≫

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