涼の新しい住処は、都電荒川線の宮ノ前駅のすぐそばである。そういう事情もあり、今度この都電荒川線に大いにお世話になることだろうと思っているところだが、涼は今日、さっそくやらかした。
  都電荒川線で路面電車であり、170円を乗車時支払いするというシステムであり、1駅でも終点まで乗っても単一料金である。涼は、山手線に乗り継ぐために大塚駅へと向かっていたのだが、そこに着くよりも前に、その電車の終着駅はやってきた。終点まで運行する便ではなかったのだと涼が気付いたのはその時だった。
  普通の電車であれば、次の便をホームで待てばよいだけであるが、都電荒川線の場合は、乗車時精算のシステムなのだから、もう1度乗れば、もう1度料金を支払わねばならない。涼は二重払いにしかめっ面をするが、車掌はそんな涼の事情など知るはずもない。
  その失敗の後、涼はあらためて時刻表を見直したが、時刻表には「every 6 minutes」と書いてあり、正確な時間もわからなければ、どの電車がどこで止まる便なのかもわからない。
「全部の便が終点まで行くと思うじゃないか」
と内心不満顔をする。荒川区の洗礼を受けた涼であった。