先日のこと。居酒屋で涼は、テレビ局関係者に演じることになった。
「私たちは、収録の時に前田さんのアンビシャスカードを何回も見ています」
という目の肥えた観客に、涼は内心ドキリとしたが、であればこそ、むしろアンビシャスカードを演じるべきところであるだろう。目の肥えた観客にこそ、評価を委ねたいところである。
「では、僕も僕なりのアンビシャスカードをお見せしますね」
と涼は、あえて演目をかぶせて勝負に出た。
  そして、
「いや!やっぱりわからない!」
と高く評価してもらえたことは、自信にも繋がるところであった。

  業界人は、マジックを見慣れているせいか、むしろマジシャンを過大評価してしまうようで、
「マジシャンはいくらシャッフルしたって、何枚目にどのカードがあるかわかるんだよね?」
と言われることもよくある。であるので、カード当てなども、演出にこだわらないと、
「どこにあるかわかっているカードを取り出すだけじゃ、面白さに欠ける」
と言われてしまったりもする。
  一方、カードの行方がそれほど簡単にわかるならば、エスティメーション(手に持ったトランプの枚数を、数えずに当てること)などはとても難易度の低いことと認識されそうであるが、意外にも、演出としては単純ながら、こちらはとてもウケが良い。
  ただし、マジックを見せるというよりも技術を見せつけている節があり、
「どう?僕ってすごいでしょー?」
と単純に自慢しているようでもあるので、求められる前に演じることは、涼はしないのだが。そんなことはできない、と思われていたほうが、どちらかというと都合が良いのである。
「それができるのなら、これもできるのは当たり前」
というような観客心理になってしまうと、やりにくくなるのである。


  さて、今日は久しぶりにオフの日であるが、雨が強く、外出にも苦労する。都電荒川線が、そんな涼の大きな味方である。