先日のこと。居酒屋で涼は、テレビ局関係者に演じることになった。
「私たちは、収録の時に前田さんのアンビシャスカードを何回も見ています」
という目の肥えた観客に、涼は内心ドキリとしたが、であればこそ、むしろアンビシャスカードを演じるべきところであるだろう。目の肥えた観客にこそ、評価を委ねたいところである。
「では、僕も僕なりのアンビシャスカードをお見せしますね」
と涼は、あえて演目をかぶせて勝負に出た。
そして、
「いや!やっぱりわからない!」
と高く評価してもらえたことは、自信にも繋がるところであった。
業界人は、マジックを見慣れているせいか、むしろマジシャンを過大評価してしまうようで、
「マジシャンはいくらシャッフルしたって、何枚目にどのカードがあるかわかるんだよね?」
と言われることもよくある。であるので、カード当てなども、演出にこだわらないと、
「どこにあるかわかっているカードを取り出すだけじゃ、面白さに欠ける」
と言われてしまったりもする。
一方、カードの行方がそれほど簡単にわかるならば、エスティメーション(手に持ったトランプの枚数を、数えずに当てること)などはとても難易度の低いことと認識されそうであるが、意外にも、演出としては単純ながら、こちらはとてもウケが良い。
ただし、マジックを見せるというよりも技術を見せつけている節があり、
「どう?僕ってすごいでしょー?」
と単純に自慢しているようでもあるので、求められる前に演じることは、涼はしないのだが。そんなことはできない、と思われていたほうが、どちらかというと都合が良いのである。
「それができるのなら、これもできるのは当たり前」
というような観客心理になってしまうと、やりにくくなるのである。
さて、今日は久しぶりにオフの日であるが、雨が強く、外出にも苦労する。都電荒川線が、そんな涼の大きな味方である。
コメント
コメント一覧 (6)
そして、とある方との再現ありがとうございました。うれしかったです。
豪華なキャスティング、ただただびっくりでした。
友達にたまにマジックを演じる事あるのですが、日本人特有?のマジックを楽しむよりタネをあばこうとする性格の彼。
どんな演技をしても(自分の力不足もありますが)返ってくる言葉は
「う~ん、、どうせタネがあるしねぇ。。。」
けど、先日同じような場面に遭遇した時
「うん、タネも仕掛けもあるよ、けど、そこには驚きと笑顔っていう、エンターテイメントがあるんよ」と言いました。
ちょっとだけ成長できたかなと思いました。
気に入っていただけてよかったです^^
それはそうと、マジックは、マジシャンの努力もさながらですが、ご存知の通り見る人の感性に大きく依存します。
ある観客に演じるととても幸せそうな顔をされる反面、タネを知っている別の観客に演じると時として不満そうな顔をされます。知識を得たがために幸せになり損ねるのだとすれば、人は何のために知識を求めるのか、哲学的な悩みにぶつかることもあります。
映画を見て、いちいち「空を飛んだように見えるけど、あれはワイヤーなんだよ」と言わないように、ディズニーランドで「ネズミのように見せてるけど、中に人が入ってるんだよ」とは言わないように、知った上で楽しみたいと思えるかどうかが、マジックを楽しむコツのひとつですね。
みつぼっちさんの受け答えも、非常によい受け答えですね(^^)
その業界人の方々は、技法を知っているのか知らないのかは分かりませんが、「全く、難しいことばかり言うんだな」とは最初思ったのです。しかし…
「現象を見て評価する」事に関しては非手品人しかもマジック嫌いな私のような者と実は同じではないか、と思いました。
業界人はそれを映像として世に流したときの効果、
非手品人はタネは分からないので、自分でどう消化し、心に残さないか、難しいですが。
の違いくらいで、それ以外は動物として感じて困ってしまう解けない謎。これを視覚で受けて感じたあとの行動は似たような物だと思います。
けど、業界人の方々、ノリが軽いですね。
テレビのお仕事の方たちは、技法を知っているわけではなさそうでしたが、しかし技法自体は視聴率に何も影響しないのでそもそも興味がなくて、単純にショーとしての面白さを求めているようでもありました。
演じる身としては、タネがどうこうという話をせずに、単純にショーとして楽しんでもらえたほうがありがたいので、非手品人さんのスタイルで見てもらうのは、良いことだと思います(^^)
タネは明かされませんので、涼さんが一番最後に使う「以上です!」と言ったり、机の上をさっと片付けてさっぱりとした雰囲気にしたり、などなど。
元はと言えば業界人がテレビ番組を作るなかで、「マジシャンは人間の力を超えた」だとか「奇跡を一緒に見届けよう」などと、マジックを扱うマジシャンが、遠い星から人間には持っていない特殊技術を携えていまこの番組で明かすのです、と言ったおどろおどしい効果で放映されてきたから、私のようなマジック嫌いが生まれたりしたのかな、と今回の涼さんの業界人のお話で感じました。
業界人は、別にマジシャンがとかマジックがとかより、番組が見られれば良いのですからね。
だからこそ、プロのマジシャンに観客に直接、見せてほしいです。
申し上げにくい事を書きました。
失礼をお詫びします。
今でこそマジックは1ジャンルとして成立していますが、もしかすると、昔はマジックと超能力の区別がなかったのかもしれないですね。
であるから、人知を超えた怪現象として、ポルターガイストなどとも同じジャンルとしての取り扱いだったのかもしれないですね。
マジックも、いろんなマジシャンがいて、いろんな演出があります。
たとえば映画が好きな人でも、アクションは好きだけどホラーは苦手、というようなのがあるように、マジックが好きでも怪奇現象仕立ては苦手、ということはあってもよいと思います。
同じマジックをやっていても、あのマジシャンがやれば面白いけど、このマジシャンのは面白くない、というように、マジシャン別に好みがわかれることも、よくある話だと思います。