あるとき、居酒屋で涼が演じた観客が、いたく喜び、
「あの。あなたを雇いたいのだが」
と言ってくれたことがある。聞くと飲食店の経営者で、
「うちのお客様にも演じてもらえませんか?」
と言う。
涼はマジシャンを職業にした当初、『プロマジシャン』の定義を模索したことがあったが、そのときは、
「クライアントがいればプロマジシャンなのではないか」
と考えた。そのとき考えた定義からすれば、現状のようにチップを収入源とする流しのマジシャンがプロなのかどうか、悩ましいところであったが、今回の依頼は、当日の涼が、
「これぞプロだ」
と思えるような提案だった。
もっとも、今となっては、給料をもらうよりも、チップ制であるほうが涼としては望ましい。
そんな話を繰り返し、
「では、廣木さんのやりやすいやり方で結構なので、うちのお客様にマジックを見せてあげてください」
と、日程も時間帯も涼任せで、チップ制でマジックを演じることになった。
それが、今日入店していた『東京豚バザール』である。
経営者の声で涼はひとまず店長やスタッフに演じて見せることとなり、そしてその演目で、涼はスタッフにも受け入れてもらえることとなった。
東京豚バザールは上野駅から1分もしない距離にあるビルの5階にあるお店で、とても雰囲気の良い豚肉料理のレストランである。
今日、涼は、上野横丁と東京豚バザールに入店した。いかんせん台風の影響で、両店ともあまり賑わってはいなかったが、ともかく仕事場所が増えるというのは、願ったり叶ったりである。
「今後は、東京豚バザールでもご来店をお待ちしています!」
コメント
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技術(奇術か)もさることながら、涼さんの人柄が人を呼んだんでしょう。
私そのお店は存じませんでした。
こういうふうに言っていただける経営者の方がいるのは嬉しいです。
感謝感謝です。