少し前に、学生時代の後輩が、涼がマジシャンをやっていることを知らずに居酒屋の客として来て、再会に驚いたことがあったが、昨日はもっと久しぶりの再会があった。
   ある飲食客が、
「あの。九州の方ですか?」
と聞いてくるのである。
「はい?わかりますか?」
と涼が言うと、
「福岡の方?」
と飲食客は続けた。
   言葉のイントネーションでわかってしまったのかとも思ったが、
「朝倉市の出身ではないですか?昭和52年生まれでは?」
と言われると、その飲食客が涼の同級生なのだろうということが、さすがにわかってくる。
   とはいえ、頭の中で同級生の顔を巡らせるが、ここ10年、20年で会った友人の顔ではなかったので、涼は思い出せずにいた。名乗られてやっと思い出したのだが、中学校以前の同級生で、卒業より25年ぶりの再会であった。もっとも、中学生のときには同じクラスにはならなかったので、小学校以来であるという印象がある上に、涼の記憶としては保育園時代の思い出が強く、35年ぶりであるようにさえ思えた。
   そんな久しぶりの再会を果たした彼は、涼にとても好意的で、仕事にも協力してくれた。ひとりで歩き回り、いろんな飲食客と相席して仲良くなり、
「友人がマジシャンなんだ。よかったら一緒に見ない?」
と言ってくれるのだ。特に、
「もう3回も見てるのにタネが全然わからなくて。一緒に見破るの手伝ってよ!」
と言うあたりは、天才かと思ってしまうほどだった。
「よし!俺に任せろ!見破ってやる!」
と意気込む観客に、昨日涼は3、4回演じ、
「全然見破れない!参りました」
と悔しそうに喜んでもらい、とても仕事がはかどったものだった。

   不思議といえば不思議だし、当然といえば当然なのかもしれないが、狭い日本、狭い東京で働いていれば、いろいろな出会いや再会があるものだった。