福岡には、「マジックテラス」というマジシャンのグループがあり、居酒屋などにマジシャンを派遣している。イベントなどの依頼も受け付けている。先日、ストリートパフォーマンス中の涼に声をかけて誘ってくれたのも、マジックテラスのマジシャンであった。
 マジックテラスの社長たちとも会い、ぜひ一緒に仕事をしたいと言われ、涼のほうもそう思っていたのだが、打ち合わせを進めるうちに、現実的にはなかなか難しいことがわかってきた。お互いに、手を取り合いたい心境であるのに、いろいろな活動方針の壁があったのだ。
 たとえば、マジックテラスは地元密着のグループであるのだが、それは涼が東京や海外で活動する事に対する足かせになってしまうのではないか、とやたらと心配されもした。夜の仕事は、昼間のストリートパフォーマンスと相容れないのではないか、との話もある。終電以降こそが仕事の本番であるのに、終電で帰らねばならない涼は、それほど仕事時間が確保できないという問題もある。福岡は、東京よりも日が暮れるのが遅いため、居酒屋が繁盛する時間帯が遅い上に、終電の時間は東京よりも早いので、東京と同じようには仕事ができないのである。一方で始発の時間は東京よりも遅く、オールナイトで仕事をしたとしても、翌朝の帰宅にも問題があるし、そうなるとその日はストリートにも出かけられなければ執筆もできない日となり、1度の仕事で2日を潰すことにもなってしまう。
 それでも何とか解決法を探ろうと、マジックテラスも善処してはくれたのだが、やはり現実的な打開策を見つけられなかったのであった。
 とはいえ、東京で、居酒屋で働きながら、地元福岡にもこういう風にマジシャンが働ける場所があればいいし、飲食客がマジックが見れる居酒屋があればいいのに、と涼は常々思っていたので、それを涼の知らない間に実現してくれていたマジックテラスには、機会あればぜひ協力したいと今でも涼は思っている。涼の勝手な心情であるが、涼のやるべき仕事を涼の代わりにやってくれているように、涼は思って感謝しているのである。


 東京と福岡の両方で仕事をした身としての涼の印象では、マジックテラスのマジシャンの水準は、涼の知る東京の水準よりも高い。というのも、若手マジシャンに対する教育体制がしっかりしているようで、ある水準に達していないマジシャンは現場に出さないようにしているのだという。もちろん、真面目に学ぶ気があれば、みな水準に達するはずではあるだろうが、不真面目な人物には、基本的には退会してもらうらしく、その基準が最も厳正なのが、マジックテラスなのである。
 つまり、マジックテラスに入れば、ある程度の水準に達するマジシャンになれるということであり、マジックテラスに依頼をすれば、その水準のマジシャンがきちんとした仕事をしてくれる、ということである。
 涼も、もっと早くその存在を知っていれば、マジシャンになるにあたって最初に扉を叩いたかもしれなかったが、マジックテラスが設立したのは、涼がマジシャンになったのとほぼ同時期であり、つまりこのブログの開設時期でもあり、そして、涼がヨーロッパを巡ってマジシャンとしての修行をした時期であった。手前味噌ではあるが、ヨーロッパでの修行の経験は、おそらくマジックテラスで学ぶよりも
大きいものであったろうと涼は思っているので、今こうして手を取り合えずに終わった現実は、ある意味、すでに定められた未来であっただろうし、よりベターな結末だったのかもしれない。もしヨーロッパに行かずにマジックテラスの扉を叩いていたとしたら、マジックテラスは今ほど涼を評価してはくれていなかっただろうと思うのだ。

 そんな涼の経験を踏まえるならば、福岡にいるマジシャン志望者に奨めたいのは、第一に海外でパフォーマンスをすることで、第二にマジックテラスに入ること、である。




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