博多どんたくにまつわるジンクスはいくつかあり、そのひとつは、いくら晴れの予報であっても、必ず雨が降る、というものである。例年、5月3日か4日のどちらかは雨が降るし、昨年は、雨どころか雹が降って人々を驚かせたものだった。そして今年も例に漏れず、ということになる。
   ふたつ目のジンクスは、パフォーマー特有の悩みであるが、チップの平均額が下がる、というものである。博多どんたくは、100万人が参加する大イベントではあるのだが、その大部分はパレードや舞台演目の演者であり、あまり財布を持ち歩いていなかったりする。涼ももう3年は博多どんたくでマジックをしているので、だいたいの状況がわかってきていて、そういう観客に対しては、こちらも餞の気持ちで演じるようになり、チップにならないとしても、不満に思うこともなくなった。


   さて、そんな今日は、突然の雨もあったものの、その前後で、それなりにパフォーマンスはできたと言ってよいだろう。
   とはいえ、さすが祭りの日だけあり、出店や他のパフォーマーもたくさんいて、場所取りには苦労をさせられる。一応、涼はマジシャンとして生計を立てていて、しかもストリートでの収入割合も少なくないわけで、いわば路上パフォーマンスのプロと言うべきなのだろうが、場所取りに関しては、いまだ学生パフォーマーにも遅れを取ってばかりいて、進歩していないことを悩んでもいる。客寄せにも同様に悩んではいるが、しかし、今日も涼は30組ほどに演じており、聞く限り、涼よりも回数を多く演じているのはプロマジシャンにもおらず、であるので、誰かのを参考にするというよりは、自分で方法論を開発しなければならない段階であることだろう。逆に、アマチュアマジシャンにアドバイスを求められたならば、路上でとにかく演目回数をこなすことだ、と涼は言うだろう。


   それはそうと、今日もまたマジシャンがやってきて、
「YouTubeで見ました。廣木涼さんですか?」
と声をかけてくれた。YouTube活動に関しては不真面目な涼であるが、そう声をかけられると嬉しくもなるものだった。