「AIが盛んになってきたら、私どもは仕事がなくなるかもしれません」
寂しそうな顔で、涼にそう言ったのは、タクシーの運転手だった。自動運転技術が発達してくると、タクシードライバーは、AIに置き換えられてしまう、というのが最近よく聞く見解である。
それ以外でもAIに奪われる仕事は多いというが、そんな時代になっても、マジシャンという職業は安泰だろうと、涼は思っている。もちろん、マジシャンという職業が安泰だからといって、涼が安泰ということには全くならない。別にAIに奪われるのを待つまでもなく、人間の仕事は人間に奪われるのが世の常である。
マジックは人間にだけ演じることができるものであって、機械にはできない、と涼が思っているわけではない。機械が演じたところで、観客が喜ばないと、涼は思っているわけだ。
野球にたとえてみるとして、時速180kmのピッチングマシンが、バッターを次々と三振に取るのを見て、観客は面白いと思うだろうか。あるいは、打席にバッティングの機械を立たせて、そのピッチングマシンの球を打ち返して飛距離200mの場外ホームランを打ったとして、観客は喜ぶのだろうか。おそらく喜ばないことだろう。人間がプレーするのを見るのが面白いのに、機械がプレーするのを見せたところで、チケットも売れなければ、テレビでも放送されなくなることだろう。
マジックも同じだと涼は思っている。
機械が完璧にマジックを習得したとして、喜ばれるとも思えないし、そもそも、『機械仕掛けのタネ』というのは、一番面白くないと言われるものである。もっとも、普通はタネが見破られることはないので、実際に面白くないと言われることはないだろうが、しかし演者が機械であったならば、
「どうせタネも機械なんでしょ」
と邪推されることにもなるし、それが真実であればいよいよ興醒めということにもなる。
ジャンルの近い職業として、お笑い芸人などもいるが、とてもウケの良い芸人と全く同じセリフをAI搭載の機械がしゃべったとして、同じように笑いが取れるかと言うと、全くそうはならないことだろう。人間だから発言に信ぴょう性があるのに、機械が言っても、
「機械にはどうせそんな感情ないんでしょ」
と周りの観客のほうが白けることにもなるだろう。
といったように、ショービジネスの世界では、AIを恐れることはまずないと思うのだが、実際のところ、もし涼がタクシードライバーであったとしても、別にそう気にするところではないと思っている。
タクシー会社に勤める会社員であれば、会社が、
「よし!今日からタクシーは全部AI運転にしよう!」
と言えば、従業員は解雇されることになるのかもしれないが、個人営業のタクシーならば、AI搭載にするも自分で運転するも、判断は自由である。つまりは、業種というよりは、勤めか自営かの違いが大きいような気もしているわけだ。
大手タクシー会社が全てAI搭載のタクシーに切り替えた後に、個人営業のタクシードライバーが運転していれば、
「やった!人間の運転手だ!ラッキー!」
と喜ばれるような未来もあり得るわけである。
機械化が進んだ時代にこそ、人間のありがたみがわかることもあるだろう。
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寂しそうな顔で、涼にそう言ったのは、タクシーの運転手だった。自動運転技術が発達してくると、タクシードライバーは、AIに置き換えられてしまう、というのが最近よく聞く見解である。
それ以外でもAIに奪われる仕事は多いというが、そんな時代になっても、マジシャンという職業は安泰だろうと、涼は思っている。もちろん、マジシャンという職業が安泰だからといって、涼が安泰ということには全くならない。別にAIに奪われるのを待つまでもなく、人間の仕事は人間に奪われるのが世の常である。
マジックは人間にだけ演じることができるものであって、機械にはできない、と涼が思っているわけではない。機械が演じたところで、観客が喜ばないと、涼は思っているわけだ。
野球にたとえてみるとして、時速180kmのピッチングマシンが、バッターを次々と三振に取るのを見て、観客は面白いと思うだろうか。あるいは、打席にバッティングの機械を立たせて、そのピッチングマシンの球を打ち返して飛距離200mの場外ホームランを打ったとして、観客は喜ぶのだろうか。おそらく喜ばないことだろう。人間がプレーするのを見るのが面白いのに、機械がプレーするのを見せたところで、チケットも売れなければ、テレビでも放送されなくなることだろう。
マジックも同じだと涼は思っている。
機械が完璧にマジックを習得したとして、喜ばれるとも思えないし、そもそも、『機械仕掛けのタネ』というのは、一番面白くないと言われるものである。もっとも、普通はタネが見破られることはないので、実際に面白くないと言われることはないだろうが、しかし演者が機械であったならば、
「どうせタネも機械なんでしょ」
と邪推されることにもなるし、それが真実であればいよいよ興醒めということにもなる。
ジャンルの近い職業として、お笑い芸人などもいるが、とてもウケの良い芸人と全く同じセリフをAI搭載の機械がしゃべったとして、同じように笑いが取れるかと言うと、全くそうはならないことだろう。人間だから発言に信ぴょう性があるのに、機械が言っても、
「機械にはどうせそんな感情ないんでしょ」
と周りの観客のほうが白けることにもなるだろう。
といったように、ショービジネスの世界では、AIを恐れることはまずないと思うのだが、実際のところ、もし涼がタクシードライバーであったとしても、別にそう気にするところではないと思っている。
タクシー会社に勤める会社員であれば、会社が、
「よし!今日からタクシーは全部AI運転にしよう!」
と言えば、従業員は解雇されることになるのかもしれないが、個人営業のタクシーならば、AI搭載にするも自分で運転するも、判断は自由である。つまりは、業種というよりは、勤めか自営かの違いが大きいような気もしているわけだ。
大手タクシー会社が全てAI搭載のタクシーに切り替えた後に、個人営業のタクシードライバーが運転していれば、
「やった!人間の運転手だ!ラッキー!」
と喜ばれるような未来もあり得るわけである。
機械化が進んだ時代にこそ、人間のありがたみがわかることもあるだろう。
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