涼は飛行機に乗って、東京の地に降り立った。これから5ヶ月ほどの東京での生活が始まる。
   住所は足立区であるが、埼玉県との県境だ。

IMG_3062

   部屋の窓からは川が見え、この川が県境であるようで、つまり埼玉県までの距離は10mか20mというところである。


IMG_3063

   部屋のドアノブの鍵に、はじめからサムターンカバーが付いているのは、あるいはサムターン回しでの空き巣被害が多いということなのだろうか、と推理小説家として勘繰ったりもしてしまう。サムターン回しとは、ドアスコープを外側から外してその穴から針金を差し込み、内側のつまみを針金で突いて回して鍵を開ける、という空き巣の手口である。その対策として、針金でつまみを突いても回せないように、円形のカバーをしているわけだ。
   このトリックは、防犯グッズが市販されていることからもわかるように、よく現実で行われるトリックであるらしいが、一方で、推理小説の中で行われると、どうにも面白みに欠けるものでもある。より原始的な、針と糸のトリックの方が、よほど面白みがあると、涼は思っているし、おそらく読者は皆そうだろう。
   原始的なトリックの方が面白い、というのはマジックも同じであり、最先端の科学トリックは、タネを知ると興醒めするほどつまらない、ということが往々にしてある。であるので、マジシャンは、観客を決して興醒めさせないように、先端トリックは特に注意を払うものである。
「そういうトランプ?」
と、仕掛けのあるカードだと推測されるならばまだしも、
「そういうアプリ?」
と見破られたら、目も当てられない、ということである。


   話が逸れてしまったが、これから東京でマジックの仕事を頑張る所存である。