新しい時計を仕入れて以降、ホッピングの仕事は昨日がはじめてであったが、早速、時計の目利きのある観客が現れた。
「へえ！グランドセイコーじゃないですか！」
   自身はロレックスを持つその観客は、やたらと腕時計に関しての話が好きなようで、話もマジックも盛り上がり、チップもまずまず良好であった。
   そういう目で涼の方も観客を見ていると、涼と同じグランドセイコーの腕時計をしている観客は意外に多く、高い時計を持っているだけあって、チップも良い。
   昨日、涼は飲食店の18テーブルでマジックを演じ、内3テーブルか4テーブルでグランドセイコーを見かけ、観客の方から涼の時計を話題にしてきたのは1テーブルであった。
   ちなみに、爪を磨いていることを指摘されることはもっと多く、10テーブル中に2、3回はある。指摘するのは、女性が圧倒的に多い。
   ともかく、観客との共通点や話題を多く持つことは、それだけ仕事がやりやすくなるということでもある。
   涼は早くも高級時計の効果を感じることができたが、それは元手が必要でもあることなので、まずは爪を磨くという安価であり、かつ時計よりも気付かれることの多い対策が、簡便であり、よりおススメできる方法だろう。