先日、涼はタクシーの車内にスマホを置き忘れるという失態を犯した。しかし、忘れた場所が明確であるのだから、取りに行くのが面倒だとは思っても、帰ってこないという危機感はあまり持たずにいた。
しかし、タクシー会社に連絡しても、忘れもののスマホは発見されず、また警察に遺失物届を出しても、該当するスマホは持ち込まれていないと言われることになる。ここにきて、やっと涼は危機感を感じることになった。
iPhoneには、GPSによる探索機能があって、家のパソコンからでもiPhone端末の位置を探ることができる、という機能は内臓されている。本来、こういう場面にこそ、役立つ機能であり、どこにあるかがマップに表示され、遠隔でデータを消去することもできる。しかし、この機能は、悪用されればハッキングに繋がるだろう。どこの誰か知らない人が、涼のアカウントとパスワードを知っただけで、涼のiPhoneのデータを消したり、また涼を追跡できたりする可能性を前々より懸念していた涼は、この機能をオフにしていたのだ。
おかげで、一応試してはみたものの、自宅のパソコンからでは追跡はできなかった。
すでに紛失から1日以上が経過していて、この時点で警察に届いていないのならば、もう拾い主は届けるつもりがないのだろうと、涼は察しているが、かといって、まだ諦めるには早い気もしている。
新しいスマホを買うには時期尚早であるし、かといってスマホを持たずにいるわけにもいかない。最寄りのsoftbankショップへと涼は出かけて、相談をしてみた。
ショップの店員は親切ではあったが、しかし涼にとって喜ばしい状況にはならなかった。たとえば、「1個前の機種がiPhone5sなのですが、一旦電話番号をこちらに移せませんか?」
と聞くと、
「今お使いのiPhone8とiPhone5sはシムカードが違っていて、シムカードの再発行でiPhone5sに電話番号を移すことはできません。機種変更として5sにすることはできますが、その場合、今のプランが全てキャンセルになります。今のプランというのは、iPhone8を購入後の24か月月々割のキャッシュバックのことですが、残り14か月分のキャッシュバックがなされない、という意味です」
という話であり、古い機種になった上に料金が高くなるという選択は、受け入れ難いものであった。ざっと3、4万円の損失といったところだろう。
それよりは、ということで結果2万5千円の損失となったが、中古iPhone6sを購入し、そこに3000円少々で再発行したシムカードを入れることで、一旦、涼は手を打った。自分のiPhoneが返ってくるまでの、代替機として、数日間だけ使おうという考えである。
ところで、ショップ店員にも、
「iPhoneを探すモードをオフにしていたのなら、探す方法はありません」
と言われて、その点は諦めていたのだが、実際のところ、再発行したシムカードを指したiPhoneを使うと、なんと、遠隔操作で紛失したiPhoneの探索モードをオンにすることができ、涼は驚いた。同じことが、向こうの端末を持つ人にもできるのだと思うと、やや恐ろしくもある。
とにかく、それによって少し前の位置情報が明らかとなったわけだが、わかったところでどうするべきものなのか、ということになる。
現状は、警察に遺失物届を出している身ではあるが、その遺失物の位置が特定できたのだから、警察に言わなければならないだろう。しかし、言ったから何なのだ、というのはまた別の問題である。涼は警察署の落とし物担当者に、
「その位置は、この市ではありませんから、管轄が違うんです。また、管轄内であったとしても、それで捜査をすることもできないんです。管轄の署の電話番号をお伝えしますので、そちらで判断を仰いでください」
と言われることになった。
もちろん、自分の不始末なのだから、自分で探しに行くというのは当然であるわけで、涼自身が足を運ぶことは一向に構わないのだが、ひと悶着に巻き込まれる可能性は容易に想像できる。
タクシー会社によると、涼の乗ったそのタクシーは、本日は1日中車庫の中にあったということだったので、涼のスマホは少なくともタクシーの中にはないことになる。そのタクシーはアリバイが成立している、と言えるのである。
すると、タクシーの中から、涼のスマホを持ち出した人物がいるということになるわけだが、その人物は、それを今も警察に届けずに保持している、という状況だ。あるいは、さらに別人物の手に渡っているかもしれないが、ともかく、警察ではない、ということである。
そして、その人物に、
「僕のスマホなので、返してください」
と言ったとして、無事に返してもらえるものなのだろうか。
もちろん、手厚く保護してくれている良心的な人物が所持してくれていれば一番良いのだが、そうでなかった場合は、涼は、向こうから見れば「せっかく拾った利益を取り返しに来た嫌な奴」という存在になるだろう。
と、まぁあまり想像の翼を広げずとも、半分の確率で、穏便には済まない状況も見えてしまうわけである。
指紋認証のロックをかけているので、情報を取られる心配は全くしていないのではあるが、情報を消される可能性は大いにあるだろう。softbankショップ店員によると、
「ロックを解除できなくても、パソコンに繋いで初期化することはできますから」
ということであったし、中古ショップでは、iPhone8の買取価格は25000円とあった。
25000円のために、涼の手持ちの情報が消されるのかと思うと、悲しくもなる。その情報の価値を誰よりも知っているのは涼自身である。20万円出してでも買い戻したいほどの気分なのである。仮にお金欲しさで中古ショップに売ろうとしているのなら、データを消さずに涼に持ち掛ければよいものを、と言いたくもなる。
もし、身代金誘拐の電話が今かかってきたら、
「よし!払う!」
と涼は即答することであろう。
いま涼は、中古のスマホへのデータ復元を試みながら、GPSが指し示すiPhoneの在処へと探索に行く準備をしている最中である。
しかし、タクシー会社に連絡しても、忘れもののスマホは発見されず、また警察に遺失物届を出しても、該当するスマホは持ち込まれていないと言われることになる。ここにきて、やっと涼は危機感を感じることになった。
iPhoneには、GPSによる探索機能があって、家のパソコンからでもiPhone端末の位置を探ることができる、という機能は内臓されている。本来、こういう場面にこそ、役立つ機能であり、どこにあるかがマップに表示され、遠隔でデータを消去することもできる。しかし、この機能は、悪用されればハッキングに繋がるだろう。どこの誰か知らない人が、涼のアカウントとパスワードを知っただけで、涼のiPhoneのデータを消したり、また涼を追跡できたりする可能性を前々より懸念していた涼は、この機能をオフにしていたのだ。
おかげで、一応試してはみたものの、自宅のパソコンからでは追跡はできなかった。
すでに紛失から1日以上が経過していて、この時点で警察に届いていないのならば、もう拾い主は届けるつもりがないのだろうと、涼は察しているが、かといって、まだ諦めるには早い気もしている。
新しいスマホを買うには時期尚早であるし、かといってスマホを持たずにいるわけにもいかない。最寄りのsoftbankショップへと涼は出かけて、相談をしてみた。
ショップの店員は親切ではあったが、しかし涼にとって喜ばしい状況にはならなかった。たとえば、「1個前の機種がiPhone5sなのですが、一旦電話番号をこちらに移せませんか?」
と聞くと、
「今お使いのiPhone8とiPhone5sはシムカードが違っていて、シムカードの再発行でiPhone5sに電話番号を移すことはできません。機種変更として5sにすることはできますが、その場合、今のプランが全てキャンセルになります。今のプランというのは、iPhone8を購入後の24か月月々割のキャッシュバックのことですが、残り14か月分のキャッシュバックがなされない、という意味です」
という話であり、古い機種になった上に料金が高くなるという選択は、受け入れ難いものであった。ざっと3、4万円の損失といったところだろう。
それよりは、ということで結果2万5千円の損失となったが、中古iPhone6sを購入し、そこに3000円少々で再発行したシムカードを入れることで、一旦、涼は手を打った。自分のiPhoneが返ってくるまでの、代替機として、数日間だけ使おうという考えである。
ところで、ショップ店員にも、
「iPhoneを探すモードをオフにしていたのなら、探す方法はありません」
と言われて、その点は諦めていたのだが、実際のところ、再発行したシムカードを指したiPhoneを使うと、なんと、遠隔操作で紛失したiPhoneの探索モードをオンにすることができ、涼は驚いた。同じことが、向こうの端末を持つ人にもできるのだと思うと、やや恐ろしくもある。
とにかく、それによって少し前の位置情報が明らかとなったわけだが、わかったところでどうするべきものなのか、ということになる。
現状は、警察に遺失物届を出している身ではあるが、その遺失物の位置が特定できたのだから、警察に言わなければならないだろう。しかし、言ったから何なのだ、というのはまた別の問題である。涼は警察署の落とし物担当者に、
「その位置は、この市ではありませんから、管轄が違うんです。また、管轄内であったとしても、それで捜査をすることもできないんです。管轄の署の電話番号をお伝えしますので、そちらで判断を仰いでください」
と言われることになった。
もちろん、自分の不始末なのだから、自分で探しに行くというのは当然であるわけで、涼自身が足を運ぶことは一向に構わないのだが、ひと悶着に巻き込まれる可能性は容易に想像できる。
タクシー会社によると、涼の乗ったそのタクシーは、本日は1日中車庫の中にあったということだったので、涼のスマホは少なくともタクシーの中にはないことになる。そのタクシーはアリバイが成立している、と言えるのである。
すると、タクシーの中から、涼のスマホを持ち出した人物がいるということになるわけだが、その人物は、それを今も警察に届けずに保持している、という状況だ。あるいは、さらに別人物の手に渡っているかもしれないが、ともかく、警察ではない、ということである。
そして、その人物に、
「僕のスマホなので、返してください」
と言ったとして、無事に返してもらえるものなのだろうか。
もちろん、手厚く保護してくれている良心的な人物が所持してくれていれば一番良いのだが、そうでなかった場合は、涼は、向こうから見れば「せっかく拾った利益を取り返しに来た嫌な奴」という存在になるだろう。
と、まぁあまり想像の翼を広げずとも、半分の確率で、穏便には済まない状況も見えてしまうわけである。
指紋認証のロックをかけているので、情報を取られる心配は全くしていないのではあるが、情報を消される可能性は大いにあるだろう。softbankショップ店員によると、
「ロックを解除できなくても、パソコンに繋いで初期化することはできますから」
ということであったし、中古ショップでは、iPhone8の買取価格は25000円とあった。
25000円のために、涼の手持ちの情報が消されるのかと思うと、悲しくもなる。その情報の価値を誰よりも知っているのは涼自身である。20万円出してでも買い戻したいほどの気分なのである。仮にお金欲しさで中古ショップに売ろうとしているのなら、データを消さずに涼に持ち掛ければよいものを、と言いたくもなる。
もし、身代金誘拐の電話が今かかってきたら、
「よし!払う!」
と涼は即答することであろう。
いま涼は、中古のスマホへのデータ復元を試みながら、GPSが指し示すiPhoneの在処へと探索に行く準備をしている最中である。
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